原田君事と映画『八甲田山』 (3)

 

 

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 映画『八甲田山』は明治期の日本陸軍の物語です。

明治期の男の髪形の件では、演出家の柳永二郎先生に怒られた舞台『湯島の白梅』のことが咄嗟に私の頭をよぎりました。

さむらいプロに入った当初、中丸忠雄さんの付き人をやっていたときに出演した名古屋の御園座での舞台のことです。(私のブログ「原田君事と舞台『湯島の白梅』の中で詳しく書いています)

 鏡の前に座った私に、メイキャップ係の方が気を使ってくれて「次の仕事に支障はないですか?」と訊いてくださいましたが「大丈夫、遠慮なくやってください」と答えました。

頭を短く刈ってもらったあと、部屋へ戻って酒を飲んでいると炊事係Aの役をやっている同じ丹波プロの俳優の三島君が「台本に書いてある<奇声を発し、外套や軍服を脱ぎ裸になる者>をやりたいと思ってふんどしを用意してきたんだが、この寒さじゃあ、とてもじゃないが無理だよ。死んでしまうよ」と言ったんです。 

私は内心「こいつは偉いなぁ!俺なんか、自分のセリフの処を見ただけで、台本なんか読んでないよ」と思いながら彼の話を聞いていました。

実際、自慢じゃないですが、今までのほとんどの仕事で、台本は自分の配役とセリフを確認するだけで他のペ-ジは読んだことがありません。

映画の流れを理解して現場に入ったことなど一度もなかったと反省をしていますが、手遅れも良いとこですね。 

三島君の話を聞いて撮影台本のシ-ン100を見てみると、ト書きの記述はわずかで、隊員役の誰がト書のどの芝居をするのかという具体的なことは何も決まっていないようでした。                  

シ-ン100 八甲田―鳴沢

 雪は赤ではなくそれを越え黒くなっている。 

 吹雪、地吹雪、積雪ともに真ッ黒だ。

 落伍は輸送隊から始まっていたが、残り少ない隊員が、食料や木炭、     

 円匙を背負ったまま倒れてしまう。                                                  

 一般隊員も同様だ。

 雪の中へ座り込みゲラゲラ笑いだす者、

 奇声を発し、外套や軍服を脱ぎ裸になる者、

 いきなり乱暴に暴れだし、雪の中を転げ廻り、                       

 その中へ頭を突っ込んで動かなくなってしまう。                     (橋本忍先生の脚本より)