原田君事と映画『八甲田山』 (6)

シーン80 八甲田―鳴沢   (橋本忍先生の脚本より)

大隊本部の雪濠。

ここは炊事班兼用で大きな平鍋が炭火の上に据えつけられて飯を炊いているが、炭火の熱で周囲の雪が溶けて釜が傾き、炊事係も大苦労だ。

雪濠の上から声。「第四小隊でありますが、飯上げはまだでありますか!」

炊事係A 「そうせっつくな、こっちも苦労しているんだ!」

炊事係B 「それに飯は上がっても、配給は第一小隊からだぞ」

 撮影が始まってから暫くして、このシ-ン80も撮りました。

雪濠の中の積雪を2メ-トル掘っても地面が露出しないので、仕方なく雪面に炭を直接敷いて平鍋で飯を炊いていると、雪が溶けて釜が傾いてくるというカットと、炊事係A・Bのセリフのカットも撮ったんですが、完成した作品を観たときは、残念ながらなくなっていました。

 撮影が始まって何日か経った頃のことです。

旅館で森谷司郎監督に声を掛けられ 

「原田君、君のその短くした頭を活かして、死んでいくカットは、防寒外套のフ-ドを取って雪の中へ飛び込んでいく芝居にしようよ」と言ってくださったので、すぐ調子に乗る私としては「監督、そこまでやらせていただけるなら、裸になってふんどし一丁で雪の中へ飛び込むことにしましょうよ」と三島君が私に言ったことをそっくりそのまま、その場の勢いで申し出てしまいました。

「この寒さの中でそんなことができるのか?」

「やったことはありませんが、いいんじゃないですか」

「軍服を脱いで裸になってたんじゃあ、時間がかかり過ぎるんじゃないか?」

森谷監督は軍服のボタンを外しているとその場面が間延びして緊張感を失うことを心配しているようだったんで、

「最初のカットは脱ぎ始めを撮って、間に他の連中が死ぬところを編集でカットインして、2カット目はズボンだけを残してほとんど脱いでいるところからスタ-トして、ズボンを脱いでふんどし一丁で雪の中へ飛び込む流れでいいんじゃないですか」

と提案してOKは貰いましたが、半端な寒さじゃないことは青森入りして以来、骨身に染みて分かっています。

とりあえず、三島君に「お前の持っていたふんどし、俺に売ってくれ」と頼み込みました。

「そりゃいいけど、どうするんだよ?」                       「なんぼや?」

「じゃあ300円」

「OK! 実はなぁ、お前がこないだ、俺に言うとった裸で狂い死にする隊員って奴を演ってやろうと思うてなぁ」 

それを聞いた三島君は呆気にとられたような顔をしていました。

頭を短く刈ってもらったことで、森谷監督の目にとまり、雪中行軍で歩くくらいしか見せ場がなかった炊事係Bの役柄が広がりました。